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わざと冷笑的にいった。 みを子はムッとしたが黙っていた。 兄はある製作所の木版工の中から、優秀な技術者として抜擢され、現在では印刷局の鐫工(せんこう)に雇われている。従って、この名人気質をぶらさげている彼と、みを子はどうしてもうまく行かなかった。そればかりでなく、職工であって、同時に月給取りである彼は、青年労働者の生活がどうすればよくなる――なんて、初歩的なことすら少しも考えはしなかった。しかし、それでいながら彼は、ブル新聞に現れた左翼の運動の記事を熱心に読む、そして無暗に受け入れて兎や角いう。 「山崎って、どんな男か知らないがね、お前たちみたいな女事務員や、百貨店の売子なんていう街頭分子なんて組織して一体どうしようていうんだい……」 その晩もとうとうまた彼は始めた。 みを子は兄が山崎のことをいってる間は、黙ってる方がいい――と思っていた。しかし話が組合のことに触れてくると、もう黙ってはいられなくなったのだ。 「何故そんな訳の解らないことをいうの兄さん――私たちは、ちゃんと職場を持っているんですよ。」 みを子は兄の僭越と無理解とに腹が立った。 「兄さんこそ、兄さんこそ、大きい工場に働いていながら独りぼっちで、向こうのいうなり次第になってるじゃないの、長い長い見習期間を、少しばかりの月給貰って、くる日もくる日も唐草ばかり彫って……」 みを子が唐草というのは、紙幣の図案の一部分のことだった。 「――私たち生活をよくするには、ただ一つの道しかないんですよ、ダラ幹のいない、一番闘争的な組合に入って、団結して闘うより仕方がない……」 「誰に教わったんだッ生意気なッ。」 兄の手先は、怒りの為に細かく慄えていた。 「私たちの方には、全協一般使用人組合がある。兄さんの方にも出版労働って組合がある。組合は闘争的な加入者のある処だったら、百貨店だって何処だって、職場、職場へどしどし組織の手を伸ばします……」 みを子はポッと頬を染めて、何時までも喋りつづけようとした。暫く彼女の雄弁はつづいた。 その間兄は、額とすれすれにおろした電燈の笠の下で、顳※(こめかみ)をぴくぴくさせて、泣き出しそうな表情をしていたが、 「みを子――」